なぜ3月決算なのか。一次史料にあった理由は米ではなく酒で、しかも6社に1社しかいない

朝もやのかかった針葉樹林の風景イラスト

3月末になると、経理はいっせいに慌ただしくなる。決算、異動、引っ越し、年度替わり。日本の会社は3月決算が多いから——そう思っていた。

数字を確かめたら、思っていたのと違った。理由のほうも、よく語られている話とは違っていた。

一次史料に書いてあったのは、米ではなく酒だった。

この記事は育ちます。公開後も、会話パート・トーク・補足を足していきます。
公開 2026-09-24 / 最終更新 2026-09-24(公開)

水深 — 3月決算は、6社に1社しかない

国税庁が「決算期別の普通法人数」という統計を毎年公表している。最新(令和6年度分)の内訳はこうだ。

  • 3月 535,064社(17.82%)
  • 9月 329,243社(10.96%)
  • 12月 317,140社(10.56%)
  • 6月 291,067社(9.69%)
  • 8月 261,798社(8.72%)
  • 5月 247,013社(8.23%)
  • 7月 229,737社(7.65%)
  • 4月 207,892社(6.92%)
  • 2月 198,161社(6.60%)
  • 10月 155,662社(5.18%)
  • 11月 119,670社(3.99%)
  • 1月 110,368社(3.68%)

全法人は約300万社。3月決算はそのうち18%、6社に1社にすぎない。

たしかに最多ではある。ただ2位の9月との差は7ポイントしかない。1位が突出しているというより、12か月にそれなりに散らばっていると言うほうが実態に近い。

「日本の会社は3月決算ばかり」は、少なくとも数のうえでは成り立っていなかった。

ついでに気づくのは、1月決算がいちばん少ないことだ。3.68%。年明けすぐに決算を締めたい会社はほとんどいない。年末年始をまたぐ締めは、たしかに気が進まない。

自分が見ていたのは、上場企業だけだった

では、なぜ「3月ばかり」と感じるのか。上場企業に絞ると景色が変わる。

日本取引所グループが毎年、3月期決算会社の数を公表している。2026年3月期の内訳と、市場ごとの上場会社数を並べるとこうなる。

  • プライム市場 1,081社 / 1,548社 = 69.8%
  • スタンダード市場 916社 / 1,560社 = 58.7%
  • グロース市場 171社 / 597社 = 28.6%
  • 上場全体 2,168社 / 3,705社 = 58.5%

ニュースで名前を聞くような会社は、7割が3月決算だ。テレビや新聞で「3月期決算」と流れるのはこの層のこと。自分が持っていた印象は、プライム市場の印象だった。

逆に、いちばん新しいグロース市場は3割を切っている。これから生まれる会社は、3月を選んでいない。

朝もやのかかった針葉樹林の風景イラスト

会社が大きいほど、3月に寄っていく

並べ直すと、きれいな傾斜になる。

  • 全法人 17.8%
  • グロース市場 28.6%
  • スタンダード市場 58.7%
  • プライム市場 69.8%

資本金1億円超の法人に限ると74.1%が3月決算だという集計もある(国税庁データをもとにした民間の分析なので、参考値として)。

大きくて古い会社ほど3月。この傾斜の理由は、あとで税制の話をするときにつながってくる。

明治政府は17年で4回、年度を変えている

4月始まりは、いつからなのか。調べると、思ったより新しくて、思ったより行き当たりばったりだった。

  • 明治2年(1869) 10月始まり(旧暦10月〜9月)
  • 明治6年(1873) 1月〜12月 太陽暦の採用に合わせて
  • 明治8年(1875) 7月〜6月 地租の納期に合わせて
  • 明治19年度(1886) 4月〜3月 現行

17年のあいだに4回変わっている。しかも移行のために、明治18年度は7月から翌3月までの9か月しかない。1年に満たない会計年度が正式に存在した。

4月始まりは伝統でも必然でもなく、4回目の試行錯誤がたまたま固定したものだった。それが140年続いている。

一次史料にあった理由は、米ではなく酒だった

では明治19年に、なぜ4月にしたのか。

国立公文書館に、当時の公文書『公文類聚』の「会計年度ヲ改定ス」が残っている。そこに理由が書いてある。

酒造税だった。

当時、大蔵省は国庫の資金繰りが苦しく、翌年度に入るはずの酒造税を前年度に繰り入れる操作を常態化させていた。文書にはこうある。

国庫ノ都合不得止ヨリ年度經過後即チ翌年ノ七月幷九月收入スヘキ第二期第三期ノ酒造税ヲ前年度ニ組入有之

「国庫の都合でやむを得ず、年度が終わった後、つまり翌年の7月と9月に入るはずの第2期・第3期の酒造税を、前年度に組み入れている」。

要するに粉飾に近いことを毎年やっていた、という告白だ。

酒造税の第1期の納期が4月だったので、4月始まりにすれば3期ぶんが1会計年度にきれいに収まり、この操作をしなくて済む。それが改定の理由だった。

立派な理念ではなく、帳尻合わせ。そう聞くと、急に身近になる。

背景にあったのは、松方デフレ

もう少し背景を追うと、当時の財政の苦しさが見えてくる。

大蔵卿の松方正義が進めた緊縮財政——いわゆる松方デフレで、税収が崩れていた。明治16年度には酒造税を増税したが、これが逆効果になり、決算では約324万円の減収になったという。

増税したのに減った。デフレのさなかに酒の税を上げれば、そうなる。

一方で軍拡の要求は膨らみ続けていた。歳入不足と歳出要求に挟まれた大蔵省が、会計年度そのものを動かすことで資金繰りの破綻を先送りした——研究論文はそう分析している。

140年後もその年度で動いている、と思うと不思議な気分になる。

暗礁① — 「米の収穫に合わせた」は、年号を1つ取り違えている

ネットで最もよく見る説明は「秋に米を収穫して換金し、税を納める流れに合わせた」というものだ。

これは間違いではないが、別の年の話だった。

地租の納期に合わせたのは明治8年の「7月始まり」のほうだ。地租の第1期の納期が8月だったので、7月始まりにすると収穫〜納税のサイクルに合う。ここは筋が通る。

ところが明治19年の4月始まりは、これでは説明できない。4月は米の収穫期でも納税期でもない。研究論文でも、米の収穫時期説は後付けの理由として退けられている。

もっとも流布している説明が、年号をひとつ取り違えていた。11年前の理由を、そのまま持ってきてしまっている。

草地を流れる川の風景イラスト

暗礁② — 「軍艦を隠すため」も、裏づけがない

もうひとつ広く流れているのが「軍艦の建造費や軍事費の赤字を隠すために年度をずらした」という話だ。テレビでも取り上げられたことがあるらしい。

こちらは一次史料での裏づけが見つからなかった。

研究側の見立ては逆で、当時の軍事費はむしろ公然と計上されており、問題は歳入そのものの崩壊だった、とする。隠す必要のあるものではなかった、ということになる。

面白い説ほど、確かめにくい。ここは「そう言われている」で止めておく。

では、いまなぜ3月のままなのか

明治の事情はとっくに消えている。それでも大企業が3月を動かさないのは、いまも続いている理由があるからだ。

いちばん大きいのは税制改正の適用時期だと思う。

法人税法の改正は、ほぼ例外なく「令和◯年4月1日以後に開始する事業年度から適用」という書き方をする。国税庁が出している改正の概要を見ると、本当にどれもこの形だ。

  • 新しいリース会計基準への対応 →「令和7年4月1日以後に開始する事業年度」
  • 中小企業者等の法人税率の特例 →「令和7年4月1日以後に開始する事業年度」
  • 防衛特別法人税 →「令和8年4月1日以後に開始する課税事業年度」
  • グローバル・ミニマム課税 →「令和8年4月1日以後に開始する対象会計年度」

3月決算なら、新しい事業年度が4月1日に始まるので、改正が期首からきれいに乗る。

12月決算だと、改正が期の途中で切り替わる。同じ事業年度のなかに旧制度の期間と新制度の期間が同居して、按分したり二本立てで計算したりする手間が出る。

制度が、慣行を再生産している。会社が大きいほど3月に寄っていくのは、大きいほど税制改正の影響を受ける項目が多いからだと思う。

加えて、国と地方の会計年度が4月〜3月(財政法)、学校の学年も4月1日から3月31日(学校教育法施行規則)。新卒の入社も人事異動も予算も4月起点。日本は政府と企業と学校が同じ4月で揃っている。

決算期は、実は自由に決められる

念のため書いておくと、3月決算は法律で決まっているわけではない。

事業年度は定款で自由に定められる。1年を超えなければよい、というだけだ。9月にしても11月にしても、法的には何の問題もない。

つまり完全に慣行だ。誰も強制していないのに、7割が同じ月に揃っている。

アメリカは、政府と企業がズレたまま回っている

よその国はどうしているのか。

アメリカの連邦政府の会計年度は10月1日〜9月30日。これも変遷があって、1842年に暦年から7月〜6月に変わり、1974年の法律で1977会計年度から10月始まりになった。理由はどちらも「議会が歳出法案を処理する時間を確保するため」。日本の酒造税とは動機がまったく違う。

では企業は10月に合わせているのか。合わせていない。アメリカの上場企業の約71%が12月31日決算だ(6,000社超を対象にした集計)。規模の大きい会社に限ると76%。2位は6月30日で6%ほど。

政府10月、企業12月。まったく揃っていない。それで普通に回っている。

日本の「政府も企業も学校も4月」という三重の同期は、国際的に見るとかなり特殊だということになる。

イギリスの4月6日という、半端な日付

イギリスは、政府の財政年度が4月〜3月で日本と同じ。法人税も4月1日始まり。

ところが個人の所得税の年度だけ、4月6日〜翌4月5日という半端な日付になっている。

この6日には由来がある。

中世以来、イギリスではLady Day(3月25日)が会計や地代の決済日のひとつだった。年度はそこから始まっていた。

ところが1752年、イギリスがユリウス暦からグレゴリオ暦に切り替えた。ずれを解消するため、9月2日の翌日をいきなり9月14日にした。11日が消えた。

財務省は困った。11日ぶんの税収を失うことになる。そこで課税期間を11日延長した。結果、翌年度の開始が4月5日にずれた。

さらに1800年。旧暦なら閏年、新暦なら平年という年が来た。財務省は課税上は閏年扱いにして、もう1日ぶんの税収を確保した。開始日が4月6日になった。

税務当局が1日ぶんの税収も手放さなかった痕跡が、270年後のいまも残っている。日本の酒造税といい、会計年度というのは、だいたい財政のやりくりでできている。

暗礁③ — 3月に揃えた代償は、株主総会に出ている

決算期が揃うと、そのあとの日程も揃う。株主総会だ。

2026年3月期決算会社の定時株主総会は、6月26日に30.6%が集中した。6月23日から26日までの4日間で、約81%が終わっている。

近年の集中率はこうだ。

  • 2022年 26.0%
  • 2023年 26.1%
  • 2024年 29.5%
  • 2025年 25.3%
  • 2026年 30.6%

3割前後で高止まりしている。

そして、これでもずいぶんマシになった数字だ。1983年には96.2%が同じ日に開いていたという。ほぼ全社が同じ日。総会屋対策として、あえて日程を揃えていた時代の産物だ。

(ピーク年について資料間で記述が食い違っている箇所があったので、数字は「そのくらい極端だった」という程度に受け取ってほしい。)

林のそばに張ったテントと焚き火の風景イラスト

日本だけ、決算から総会までが短い

金融庁が、この集中を問題として検討会を開いている。その資料に、面白い国際比較が載っていた。

決算期末から株主総会までの期間だ。

  • ボーイング(米) 12月末決算 → 5月17日総会 約4か月半
  • ロールス・ロイス(英) 12月末決算 → 5月23日総会 約5か月
  • メルセデス・ベンツ(独) 12月末決算 → 5月8日総会 約4か月半
  • 日本の一般的な会社 3月末決算 → 6月下旬総会 約3か月

日本だけ1か月半から2か月短い。しかもその短い3か月に、上場会社の6割が同時に殺到する。

決算を締めて、監査を受けて、有価証券報告書を作って、招集通知を送る。これを全社が同じ3か月でやる。監査法人のリソースが足りなくなるのは、構造としてそうなっている。

3月末から6月にかけての慌ただしさは、気のせいではなかった。期間が短いことと、全社が同時であることの掛け算になっている。

3月末が慌ただしいのは、決算だけのせいではない

もうひとつ、3月に重なっているものがある。

人が動く。人事異動があり、転勤があり、引っ越しがある。総務省の人口移動報告を見ると、2026年3月の移動者は約91万6千人だった。

(3月が年間のピークかどうかまでは今回確認できていないので、そこは断定を避ける。ただ体感としては、引っ越し業者が取れないのはたいてい3月だ。)

決算、異動、引っ越し、入学、入社、予算の締め。これらが全部3月末に寄っているのは、国の会計年度と学校の学年度が同じ4月始まりだからだ。ひとつの制度が、生活のリズムまで決めている。

経理が3月に忙しいのは決算のせいだと思っていたが、正確には「みんなが同時に忙しい時期に、決算も来る」というほうが近い。取引先も忙しいので、確認の返事も遅くなる。

もし12月決算に変えたら、どうなるか

では、自分の会社を12月決算に変えたらどうなるのか。想像してみると、いいことと悪いことが両方ある。

いいこと

  • 監査法人も税理士も、繁忙期を外せる。対応が丁寧になる
  • 海外子会社と決算期が揃う。連結のズレがなくなる
  • 3月末の他の忙しさと重ならない
  • 株主総会が集中日を避けられる

悪いこと

  • 税制改正が期の途中で切り替わる。按分と二本立て計算が発生する
  • 官公庁や大企業の取引先が4月〜3月で動いているので、予算のサイクルがズレる
  • 補助金の交付決定・実績報告が年度単位なので、決算とかみ合わない
  • 年末年始をまたいで締めることになる

比べると、「制度と噛み合っているか」が決め手になるのが分かる。官公庁との取引が多い会社ほど3月から動けないし、海外売上が大きい会社ほど12月に寄りたくなる。

決算期の分布は、その会社がどこを向いて商売しているかを映しているのかもしれない。

ほかの国も見てみたが、日本ほど揃っていない

念のため、いくつか調べた。

韓国は現在、1月〜12月の暦年。かつて日本の統治期の影響で4月始まりだった時期があるという話も見かけたが、一次史料までは確認できなかったので、ここは保留にしておく。

中国とドイツは原則として暦年とされる。ただし各国の法令原文までは当たれていない。

インドは4月〜3月で、日本と同じだ。イギリスの制度を受け継いだ結果ではないかと言われている。

こうして眺めると、4月始まりの国はイギリス系に多いようにも見える。日本が明治期にイギリスの財政制度を参照していたのは事実なので、無関係ではないのかもしれない。ただし明治19年の改定理由として一次史料に書かれているのは、あくまで酒造税のほうだ。「結果的に一致した」以上のことは言えない。

航路 — 3月決算は、静かに減っている

最後にもうひとつ。3月決算は減っている。

1997年と2024年の同じ統計を比べる。

  • 3月決算 543,709社 → 535,064社(実数で−1.6%)
  • 12月決算 245,664社 → 317,140社(+29.1%)
  • 法人総数 2,641,307社 → 3,002,815社(+13.7%)

法人の総数が27年で13.7%増えているのに、3月決算だけ実数で減っている。シェアで見ると20.58%から17.82%へ、3ポイント近く落ちた。いちばん伸びたのは12月決算だった。

上場企業でも同じ傾向がある。2024年3月期の3月期決算上場会社は2,297社、2026年は2,168社。同じ期間に上場会社の総数は増えているので、比率としては下がっている。

理由のひとつは連結だ。海外子会社はたいてい12月決算なので、親会社が3月のままだと3か月のズレを抱え続けることになる。それを解消するために12月へ移す会社が出てきている。東証も適用会社を公表していて、国際会計基準を採用している会社は300社を超えた。

業種の事情もある。ビールのように12月が需要のピークになる会社は、閑散期の1月に決算作業をしたほうが合理的だ。

とはいえ、27年で3ポイントだ。崩壊しつつあるのではなく、静かに薄まっているというほうが正確だと思う。あと何十年かは、3月末はやっぱり慌ただしい。

会計の慣行がどれだけ動かないかという意味では、借方がなぜ左なのかの話も似ている。500年前の本にすら、理由が書いていなかった。


この記事は、まだ書きかけです

この記事は、公開してから足していく形にしています。調べたことを書いた本文がまず先にあって、あとから「聞き手と話し手の会話」「あとで思い出したこと」「読んだ人から教わった補足」が積もっていきます。

だから、同じURLでも半年後には別のものになっているはずです。もし一度読んだことがある記事なら、下の更新ログだけ見てください。増えたところが分かります。

更新ログ

  • 2026-09-24 公開(本文のみ。会話パートはこれから足します)