引っ越しのときに「この電子レンジ、関西では使えないかも」と言われる。
日本の電気は、東が50ヘルツ、西が60ヘルツで分かれている。世界的に見ても、1つの国で2つに分かれているのは珍しい。
理由をたどると、明治時代に東京と大阪が、別々の国から発電機を買ったところに行き着く。
そして、その分断はいまも解消されていない。つなぐための設備の容量は、日本の総発電量からすると、ごくわずかしかない。
この記事は育ちます。公開後も、会話パート・トーク・補足を足していきます。
公開 2026-10-22 / 最終更新 2026-10-22(公開)
水深 — 1895年と1897年
分かれ目は、19世紀末にある。
- 1895年(明治28年) 東京電燈が、ドイツのAEG製の発電機を導入。50Hz
- 1897年(明治30年) 大阪電燈が、アメリカのGE製の発電機を導入。60Hz
当時、電気の規格は世界で統一されていなかった。ヨーロッパは50Hz、アメリカは60Hzで進んでいた。
東京はドイツから、大阪はアメリカから買った。それぞれが、買った先の規格をそのまま持ち込んだ。
そして周辺の電力会社が、それぞれ東京式・大阪式にそろえていった。気がついたら、国土が2つに分かれていた。
統一しようとした話はある
当然、統一の議論は何度も出ている。
戦後から高度成長期にかけて、統一案が検討された。ただ、そのたびに費用が壁になった。
統一するには、
- 発電所の設備を入れ替える
- 変電・送電設備を合わせる
- 家庭と工場の機器を、全部取り替える
3つめが桁違いに大きい。全国の電気製品を一斉に交換することになる。
そして時間が経つほど、機器の数が増える。やるなら早いほうがよかったが、早いうちは電力需要の伸びに追いつくので精一杯だった。
いまから統一するのは、実質的に不可能というのが現在の位置だと思う。

境界線は、静岡から新潟にかけて
どこで分かれているのか。
おおまかには、富士川(静岡)と糸魚川(新潟)を結ぶ線が境目とされる。
- 東 北海道、東北、東京 → 50Hz
- 西 中部、北陸、関西、中国、四国、九州、沖縄 → 60Hz
ただし、境界の付近はきれいに分かれていない。静岡県内や新潟県内、長野県の一部では、市町村単位、さらには地区単位で混在しているところがある。
同じ市内で周波数が違う地域がある、という状態が実際に存在する。
つなぐ設備は、4か所しかない
東西で周波数が違うと、そのままでは電気を融通できない。交流の波の数が違うものは、直接つなげない。
そこで周波数変換設備(FC)が置かれている。いったん直流に変換して、相手側の周波数の交流に戻す。
現在、4か所ある。
| 設備 | 容量 |
|---|---|
| 佐久間周波数変換所 | 30万kW |
| 新信濃変電所 | 60万kW |
| 東清水変電所 | 30万kW |
| 飛騨信濃周波数変換設備 | 90万kW |
| 合計 | 210万kW |
いちばん新しい飛騨信濃は、2021年3月31日に運用を開始した。これにより、合計容量が120万kWから210万kWに拡大している。
210万kWが、どれくらいか
この数字の意味を考えてみる。
日本全体の発電設備容量は、2億kWを大きく超える。夏のピーク需要でも、1億5,000万kW前後になる。
そこに対して、東西をつなぐ容量が210万kW。
全体の1〜2%程度しかない。
つまり、東で電気が足りなくなっても、西から送れる量はごく限られている。国土が電力的に、ほぼ2つに分かれたままということになる。
2011年に、これが問題になった
この制約が誰の目にも見えたのが、2011年の東日本大震災だった。
東日本で発電所が止まり、深刻な電力不足になった。西日本には余力があった。それでも送れなかった。
当時のFC容量は100万kW(東清水の増強前)。これが上限だった。
そこから、容量を増やす議論が進んだ。東清水の増強、そして飛騨信濃の新設。10年かけて2倍になった。
さらに増強の計画も進められている。ただ、送電線の建設には時間も費用もかかる。すぐには増えない。

実務でどう関係するか
経理や総務の仕事で、周波数が問題になる場面は限られている。ただ、ゼロではない。
① 事業所の移転
東から西へ、あるいは西から東へ事務所を移すとき、機器によっては使えなくなる。
そのまま使えるもの
- パソコン、スマホの充電器(内部で直流に変換している)
- LED照明の多く
- インバータ搭載の家電(最近のものはほとんど)
使えない・不調になるもの
- モーターで動く古い機器(回転数が変わる)
- タイマー式の古い機器(時間がずれる)
- 蛍光灯の古い安定器
- 一部の業務用機器
いまの家電はほぼ「50/60Hz共用」と書かれている。銘板を見るのが確実だ。
② 業務用機器の設置
工場の機械、厨房機器、印刷機。こういうものは周波数の指定があることが多い。中古で買うときは、どちらの地域で使われていたかを確認する。
③ 電力の契約
大口需要家の場合、周波数によって調達先が変わる。ただ、これは電力会社側の話で、需要家が意識することはあまりない。
世界ではどうなっているか
参考までに。
- 50Hz ヨーロッパ、中国、インド、オーストラリア、アフリカの多く
- 60Hz アメリカ、カナダ、韓国、台湾、フィリピン、中南米の多く
電圧も国によって違う。日本は100Vで、これも世界的には低いほうになる。ヨーロッパは220〜240V、アメリカは120Vが一般的だ。
日本の100Vという電圧も、明治時代の選択が残ったものとされる。
海外向けの機器を扱うなら、電圧と周波数の両方を見る必要がある。「100-240V 50/60Hz」と書いてあれば、世界中で使える。
分断が残るということ
この話を調べていて思ったのは、初期の選択が、どれだけ長く効くかということだった。
1895年と1897年、2年違いの調達。そのときは、たぶん誰も気にしていなかった。使える発電機を、使える相手から買っただけだ。
130年後、それが国土を2つに分けている。統一するには大きすぎるコストがかかり、つなぐ設備は全体の1〜2%しかない。
あとから直せないものが、最初の小さな選択で決まることがある。
このブログで書いてきた話に、似た構図がいくつもあった。
- QWERTY配列 偶然の積み重なりが、そのまま固定された
- Excelの1900年うるう年 互換性のために引き継いだ間違い
- JIS B判 日本だけ違うサイズが残った
- A4の√2 こちらは、逆に最初に正しく設計された例
正しく設計しても、間違って始めても、始まりの形が長く残るという点は同じだった。
それでも、あとから足せるものはある
悲観的に書いたが、周波数変換設備は増えている。
100万kW → 120万kW → 210万kW。時間はかかるが、増えている。
統一はできなくても、つなぐ量を増やすことはできる。全部を作り直さなくても、つなぎ目を太くすれば融通できる。
これは実務でも同じだと思う。基幹システムを全部入れ替えるのは無理でも、システム間のつなぎを改善することはできる。紙をやめられなくても、受け取ったあとを電子にすることはできる。
全部を直すか、何もしないかの二択で考えると動けなくなる。つなぎ目を太くするという道が、たいていある。

航路 — 2年違いの調達が、130年残った
整理する。
- 1895年に東京電燈がドイツAEG製(50Hz)、1897年に大阪電燈がアメリカGE製(60Hz)を導入した
- 周辺の事業者がそれぞれに合わせ、国土が2つに分かれた
- 統一案は何度も出たが、機器の全面交換の費用が壁になった
- 境界は富士川と糸魚川を結ぶ線。ただし境界付近は地区単位で混在している
- 東西をつなぐ周波数変換設備は4か所、合計210万kW
- 2021年3月31日に飛騨信濃(90万kW)が運用開始し、120万kWから210万kWに拡大
- それでも全体の1〜2%程度。国土は電力的に、ほぼ分かれたまま
コンセントから同じように電気が来ているので、何も分かれていないように見える。
でも中身は、130年前に別々の国から買った2つの系統が、細い設備でつながっているだけだった。
毎日使っているものほど、そうなっている理由を知らない。この連載で書いてきたことは、だいたいそれだった。
電圧も、明治の選択が残っている
周波数の話をしたので、電圧も触れておく。
日本の家庭用電源は100V。これは世界的にかなり低い。
- 日本 100V
- アメリカ 120V
- 韓国 220V
- 中国 220V
- ヨーロッパ 230V前後
電圧が低いと、同じ電力を送るのに大きな電流が必要になる。電流が大きいほど、電線での損失が増える。だから太い電線が要る。
効率だけで言えば、高いほうが有利になる。
それでも100Vが残っているのは、周波数と同じ理由だ。全部の機器を取り替えることになるから。
ただし、日本の家庭にも200Vは来ている。分電盤には単相3線式で200Vが入っていて、エアコンやIHクッキングヒーターは200Vで動かせる。
低い電圧が残っているのではなく、100Vと200Vを併用しているというのが実際のところになる。
電気の周波数と、時計
昔の話をひとつ。
交流の周波数を使って時間を刻む時計があった。電源の波を数えて、秒を作る。
50Hzの地域で60Hz用の時計を使うと、時計が遅れる。1時間あたり10分ずれる計算になる。
いまはクオーツが主流なので、この問題はほぼ消えた。ただし、古い業務用機器のタイマーには、まだ残っていることがある。
事務所を東西で移転したとき、「タイマーがずれる」という現象が起きたら、これを疑う。
発電と、周波数の維持
もう少し技術的な話を。
電力会社は、周波数を一定に保つことを常に求められている。
需要が供給を上回ると、周波数が下がる。逆なら上がる。発電機の回転が、需要に引っ張られるからだ。
許容範囲は、おおむね標準値の±0.2〜0.3Hz程度とされている。50Hzなら49.8〜50.2Hzあたり。
これを超えると、発電機が自らを守るために系統から切り離される。切り離されると、残った発電機にさらに負荷がかかる。連鎖すると大規模停電になる。
2018年の北海道胆振東部地震で起きたブラックアウトは、この連鎖だった。
需要と供給を、秒単位で合わせ続けている。電気は貯められないので、使う分だけ作り続けるしかない。
そう考えると、東西でつなげないという制約の重さが分かる。片方が足りなくても、もう片方から持ってこられない。
電力の契約と、経理
経理の仕事に引き寄せる。事業所の電気代の請求書を見ると、いくつか項目がある。
- 基本料金 契約電力(kW)に応じた固定費
- 電力量料金 実際に使った電力量(kWh)
- 燃料費調整額 燃料価格の変動を反映(プラスにもマイナスにもなる)
- 再生可能エネルギー発電促進賦課金 使用量に応じた上乗せ
このうち、基本料金は使わなくてもかかる。そして契約電力は、多くの場合過去1年間の最大需要電力で決まる。
つまり、1回だけ大きく使った月が、その後1年間の基本料金を決めてしまう。
デマンド監視という仕組みがあるのは、このためだ。ピークを抑えると、基本料金が下がる。
経費削減で電気代を見るなら、使用量より先に、ピークを見る。これは知っていると効く。
停電に備える、事務の話
最後に実務的なところ。
停電したときに何が止まるか、書き出しておくといい。
- パソコン(ノートは電池で動くが、ネットワークが止まる)
- 複合機、FAX
- 電話(IP電話は停電で止まる。アナログ回線は生きることがある)
- 入退室のカード
- サーバ、NAS
IP電話が止まるのは見落とされやすい。「電話は生きているだろう」と思っていると、連絡手段がなくなる。
そしてデータの保存。作業中のファイルが飛ぶ。自動保存の間隔を短くしておく、クラウドに置く、といった対策になる。
前にFAXの話で「インターネットにつながっていないから安全」という主張を紹介した。停電に関しては、アナログのFAXのほうが生き残ることがある。電話回線から給電されるからだ。
古い仕組みが残る理由の1つに、こういう「壊れ方が違う」という面があるのだと思う。全部を同じ仕組みに寄せると、同じ理由で全部止まる。
この記事は、まだ書きかけです
この記事は、公開してから足していく形にしています。調べたことを書いた本文がまず先にあって、あとから「聞き手と話し手の会話」「あとで思い出したこと」「読んだ人から教わった補足」が積もっていきます。
だから、同じURLでも半年後には別のものになっているはずです。もし一度読んだことがある記事なら、下の更新ログだけ見てください。増えたところが分かります。
更新ログ
- 2026-10-22 公開(本文のみ。会話パートはこれから足します)

