AIが堂々と嘘をつくのは、試験で「分かりません」が0点だからだった

星空の下のキャンプの風景イラスト

AIに聞いたら、それらしい答えが返ってきた。確かめたら、間違っていた。

腹が立つのは、間違い方が堂々としていることだ。自信なさげに言ってくれれば警戒できるのに、断言してくる。

これをハルシネーションという。原因は「AIが嘘をつきたがるから」ではなかった。そう振る舞うほうが点が取れる仕組みになっていたからだった。

OpenAIが2025年9月に出した論文に、その説明がある。読んでみたら、かなり身も蓋もない話だった。

この記事は育ちます。公開後も、会話パート・トーク・補足を足していきます。
公開 2026-10-07 / 最終更新 2026-10-07(公開)

水深 — 論文の出だしが、自分のことだった

論文「Why Language Models Hallucinate」の冒頭に、こういう例が出てくる。

著者の一人(Adam Tauman Kalai)の博士論文のタイトルを、チャットボットに聞いた。3回聞いて、3回とも違う答えが返ってきた。

誕生日を聞いても、違う日付が返ってきた。

研究者が、自分自身についての質問でハルシネーションを引き当てている。論文の出だしとして、これ以上ないと思う。

理由は2つに分かれる

論文は、原因を2段階に分けている。

① 事前学習(覚える段階)で避けられないもの

② 評価(採点する段階)で強化されているもの

順番に見ていく。

星空の下のキャンプの風景イラスト

① 覚える段階 — パターンのない事実は、予測できない

言語モデルは、大量の文章から「次に来る言葉」を予測する訓練を受ける。

このとき、規則性のあるものは学習できる。スペリング、文法、括弧の対応。こういうものは一貫したパターンに従っているので、覚えられる。

問題は、規則性のない事実だ。

論文は「ペットの誕生日のような、恣意的で低頻度の事実」と表現している。誰かのペットの誕生日は、他のどんな情報からも導けない。パターンがない。

パターンがないものを、パターンを学ぶ仕組みで扱うとどうなるか。それらしい形のものを出してしまう。

日付を聞かれたら、日付の形をしたものを出す。論文のタイトルを聞かれたら、論文のタイトルらしい文字列を出す。形は合っていて、中身が違うという出力になる。

これは訓練方法の副作用であって、バグではない。だから完全にはなくせない、と論文は言っている。

② 採点する段階 — 推測したほうが点が取れる

面白いのはこちらだ。

AIの性能は、ベンチマークで測られる。多くのベンチマークは、正解か不正解かの2択で採点する。

この採点方法だと、何が起きるか。

誕生日を聞かれたとする。

  • 「9月10日」と答える → 365分の1の確率で正解。期待値は約0.27%
  • 「分かりません」と答える → 0点

推測したほうが、期待値が高い。

数千問のテストでこれを繰り返すと、当てずっぽうで答えるモデルのほうが、慎重なモデルより成績がよく見える。

論文の言い方を借りると、正確性だけで評価されるスコアボードでは、推測が報われる。

つまり——AIは、そう訓練されたのではなく、そう評価されたから、そうなっている。

数字で見ると、はっきりしている

OpenAIは、自社のモデル同士を比べた数字を出している。SimpleQAという事実確認のベンチマークでの結果だ。

gpt-5-thinking-miniOpenAI o4-mini
棄権率(分からないと答えた割合)52%1%
正答率22%24%
誤答率26%75%

o4-miniのほうが、正答率はわずかに高い。24%対22%。

一方、誤答率は75%対26%。3倍近い差がある。

正答率だけを見るランキングでは、o4-miniのほうが上に来る。けれど実際に使う側から見れば、4回に3回間違えるモデルより、半分は「分かりません」と言ってくれるモデルのほうがはるかに使える。

評価の物差しが、使い勝手とずれている。 論文が指摘しているのは、ここだ。

試験のたとえが、いちばん分かりやすい

自分が受けてきた試験を思い出すと腑に落ちる。

四択のマークシートで、空欄にする人はいない。 分からなくても、とりあえずどれかを塗る。25%の確率で当たるから。

減点法の試験なら、話は変わる。間違えるとマイナス、空欄なら0。そうなると、自信のない問題は飛ばすようになる。

AIの評価は、ずっと空欄0点のマークシートでやってきた。 だから当てずっぽうを覚えた。

波打ち際と海鳥のいる砂浜の風景イラスト

では、どうすればいいのか

論文の提案は、採点方法を変えることだ。

  • 自信をもった誤答を、より厳しく罰する
  • 適切に不確実性を表明した場合には、部分点を与える

そして重要なのは、「ハルシネーション専用のベンチマークを1つ追加する」では足りないと言っていることだ。

広く使われている、正確性ベースの主要な評価指標そのものを組み直す必要がある、と書いてある。

新しい試験を1つ増やしても、受験生は主要科目のほうを対策する。主要科目の採点基準を変えないと、行動は変わらない。

使う側として、何ができるか

採点方法を変えるのは作る側の仕事だ。使う側としてできることを整理する。

① 「分からない場合は分からないと書いて」と明示する

プロンプトに1行入れるだけで、変わる。評価で不利になる行動を、こちらから許可してやる形になる。

「情報が不足している場合は、推測せずに何が不足しているかを挙げてください」——この書き方が、いちばん効いた。

② 固有名詞と数字は、必ず裏を取る

ハルシネーションが出やすいのは、パターンのない事実だった。つまり、

  • 人名、書名、論文のタイトル
  • 日付、金額、条文番号
  • URL、製品の型番

ここは疑う。逆に、考え方の整理や、文章の言い換えは比較的安全だ。危ない場所が分かっていれば、確認する場所を絞れる。

③ 出典を出させて、その出典を自分で開く

「根拠を示して」と頼むと、それらしい出典が返ってくる。出典そのものがハルシネーションのことがあるので、リンクを開いて中身を見る。

開いて確かめるまでが1セットだと思ったほうがいい。

④ 聞き方を変えて2回聞く

同じことを、違う言い方で2回聞く。答えが揺れたら、そこは信用できない。

冒頭の論文の例も、3回聞いて3回とも違う答えが返ってきたことで発覚している。揺れるかどうかは、自分でも確かめられる。

「ハルシネーション」という言葉について

ついでに、用語の話も。

hallucination は、もともと医学・心理学の用語で「幻覚」を指す。実在しないものを知覚してしまう状態だ。

この言葉をAIに当てたのは的確な面もあるが、誤解も招いていると思う。

幻覚という言葉には「見えてしまう」という受動的なニュアンスがある。AIが何かを見間違えているような印象になる。

でも実際に起きているのは、もっともらしい形の文字列を作っていることだ。見間違いではなく、確率的な穴埋めに近い。

「作話」や「でっち上げ」と訳すほうが実態に近い、という指摘もある。ただ、言葉が定着してしまった以上、いまさら変えるのは難しい。

言葉の印象に引きずられると、「AIが疲れている」「機嫌が悪い」といった擬人化に流れやすい。仕組みで理解しておくほうが、対処を間違えない。

完全にはなくならない、という前提

論文が言っているのは、「採点方法を変えれば直る」ではない。

事前学習の段階で生じるぶんは、統計的に避けられないとされている。パターンのない事実を、パターン学習の仕組みで扱っている以上、ゼロにはできない。

減らせるのは、評価によって強化されている部分のほうだ。

だから使う側としては、「そのうち直るから待とう」ではなく、間違いが混ざる前提で仕事の手順を組むほうが現実的だと思う。

  • AIに下書きを書かせる
  • 固有名詞と数字だけを人間が確認する
  • 確認したものだけを外に出す

この3段にしておけば、速度の利益は取りつつ、事故は防げる。全部を疑うと速度の利益が消えるので、疑う場所を絞るのがコツになる。

林のそばに張ったテントと焚き火の風景イラスト

航路 — 仕組みが分かると、対処が変わる

整理する。

  • ハルシネーションの原因は2つ。覚える段階で避けられないものと、採点方法が強化しているもの
  • パターンのない事実(誕生日、固有名詞、数字)は、予測のしようがない
  • 多くのベンチマークは正解か不正解かの2択。「分かりません」は0点
  • だから推測したほうが期待値が高い。当てずっぽうが訓練された
  • SimpleQAでの比較では、棄権率52%のモデルの誤答率26%に対し、棄権率1%のモデルは誤答率75%
  • OpenAIの提案は、自信をもった誤答を厳しく罰し、不確実性の表明に部分点を与える採点への変更
  • 使う側は、分からないと言っていいと明示する/固有名詞と数字だけ確認する

いちばん腑に落ちたのは、原因が技術ではなく評価の設計にあったことだった。

測り方が行動を決める。これはAIに限った話ではないと思う。売上だけで評価すれば売上だけを追うようになるし、件数で評価すれば件数を稼ぐようになる。

何を測るかを決めた時点で、何が起きるかはだいたい決まっている。

そう考えると、この論文は機械学習の話をしながら、ずっと組織の話をしているようにも読める。

間違いやすい質問、間違いにくい質問

どんな質問でハルシネーションが出やすいか。原因が「パターンのない事実」にあると分かれば、予想がつく。

出やすい

  • 人名と、その人の経歴 「◯◯さんの著書は」
  • 日付 「その法律はいつ施行されたか」
  • 数字 「その会社の従業員数は」
  • 条文番号 「根拠は何条か」
  • 出典とURL 「参考文献を挙げて」
  • マイナーな固有名詞 情報量が少ないほど危ない

出にくい

  • 一般的な考え方の説明 「複式簿記の仕組みを説明して」
  • 文章の書き換え 「これを短くして」
  • 分類と整理 「この一覧を3つに分けて」
  • 翻訳
  • こちらが渡した文章の中の話

境目ははっきりしている。こちらが情報を渡した話は安全で、向こうが記憶から出す話が危ない。

だから、社内規程について聞きたいなら、規程そのものを貼って聞く。記憶に頼らせないほうが、事故が起きない。

条文番号は、いちばん危ない

経理の仕事で使うなら、ここは強調しておきたい。

条文番号は、ハルシネーションの温床だ。

理由は構造的で、

  • 「法人税法◯◯条」という形は決まっている
  • 数字の部分には規則性がない
  • それらしい番号を出すのは簡単で、合っているかは見ないと分からない

しかも、番号が1つ違っても文章としては成立してしまう。エラーが出ない間違いになる。

対処は単純で、e-Govなどで実際に条文を開く。開いて、書いてあることが一致しているか見る。

これをやらずに社内文書に条文番号を書くと、あとで恥をかく。自分の名前で出す文書なら、なおさらだと思う。

「自信度を教えて」は、効くのか

よく言われる対処に「確信度を10段階で示して」というものがある。

効くこともあるが、限界がある。自信度そのものが、もっともらしく生成されるからだ。「確信度8」と言われても、その8に根拠があるとは限らない。

それよりも効いたのは、こちらの書き方だった。

「この回答のうち、確認が必要な箇所に印をつけて」

数字を出させるのではなく、どこを確認すべきかを挙げさせる。使う側としては、そのリストがあれば十分だ。

もうひとつ。

「一次情報にあたれる部分と、あたれない部分を分けて」

これも有効だった。出典が示せるものと、示せないものを自分で分けさせる。

どちらも「どれくらい自信があるか」ではなく、「何を確認すればいいか」を聞いている。使う側にとって必要なのは、後者のほうだった。

使う側の手順を決めておく

仕組みが分かったら、手順に落とす。仕事で使うなら、こういう3段にしておくと安全だと思う。

① 渡す

前提条件、社内の規程、元データ。記憶に頼らせない。

② 作らせる

構成、下書き、言い換え、整理。ここは得意な領域。

③ 確認する

固有名詞、数字、日付、条文番号、出典。この5つだけを人間が見る。

全部を疑うと、AIを使う意味がなくなる。疑う場所を5つに絞るのが、速度と正確さの折り合いだと思う。

そして、③を飛ばしていいものと、飛ばしてはいけないものを分ける。社内メモなら飛ばしてもいい。社外に出す文書と、数字が入るものは飛ばさない。


この記事は、まだ書きかけです

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更新ログ

  • 2026-10-07 公開(本文のみ。会話パートはこれから足します)