コピー機の前に立つ。A4をA3に拡大するとき、押すボタンは141%。A3をA4に縮めるときは71%。
なぜ150%と50%ではないのか。
答えは√2(ルート2)だった。そしてそこから引っ張ると、A0の面積がちょうど1平方メートルであることや、コピー用紙1枚の重さが暗算で出せることまで、全部つながっていた。
日本の官公庁がA4に統一したのが1990年代だったことも、調べて初めて知った。それまではB判だった。
この記事は育ちます。公開後も、会話パート・トーク・補足を足していきます。
公開 2026-09-27 / 最終更新 2026-09-27(公開)
水深 — 半分に折っても、形が変わらない紙
A判の紙には、ひとつだけ特別な性質がある。
半分に折っても、縦横比が変わらない。
A4を半分にするとA5。A5を半分にするとA6。どれも同じ形をしている。当たり前のように使っているが、これは普通の紙では起きない。
この性質が成り立つ比率は、ひとつしかない。1:√2(約1:1.41421356)だ。
確かめてみる。短辺1、長辺√2の紙があるとする。長辺を半分に折ると、短辺が√2÷2、長辺が1になる。比を取ると——
√2/2 : 1 = 1 : √2
同じになる。√2以外の比では、こうはならない。
A0の面積は、定義上ちょうど1平方メートル
そしてもうひとつ。
A0の面積は、ちょうど1平方メートル。
これが偶然ではなく、定義だ。ISO 216という国際規格は「A0の面積を1m²、縦横比を1:√2とする」と決めて、そこから全サイズを導いている。
計算すると、A0の短辺は 2の(-1/4)乗 メートル=840.896…mm、長辺は 2の(1/4)乗 メートル=1189.207…mm。これをミリ単位に丸めて 841 × 1189mm になる。
A0から順に半分にしていくと、こうなる。
| 寸法(mm) | 寸法(mm) | ||
|---|---|---|---|
| A0 | 841 × 1189 | A6 | 105 × 148 |
| A1 | 594 × 841 | A7 | 74 × 105 |
| A2 | 420 × 594 | A8 | 52 × 74 |
| A3 | 297 × 420 | A9 | 37 × 52 |
| A4 | 210 × 297 | A10 | 26 × 37 |
| A5 | 148 × 210 |
A4はA0の16分の1にあたる。面積は 1/16 m² だ。
A4を16枚並べると、ちょうど1平方メートルになる。

コピー用紙の重さが、暗算で出る
ここから実務ネタになる。
紙の厚みは「坪量」という単位で表される。1平方メートルあたり何グラムか、という値だ。単位は g/m²。
A0が1m²、A4がその16分の1。ということは——
A4一枚の重さ = 坪量 ÷ 16
コピー用紙でよく使われる坪量64g/m²なら、64 ÷ 16 = ちょうど4グラム。68g/m²なら4.25グラム。
郵便を出すときに、これが効く。封筒の重さを引いて、残りを4で割れば、入れられる枚数が出る。秤に載せる前に答えが分かる。
A0を1m²と定義したことの副産物だ。設計した人がここまで狙っていたのかは分からないが、よくできている。
ついでに、日本の紙の「連量」という表記も、これで読めるようになる。
印刷所に紙を頼むと「四六判110kg」のような言い方が出てくる。あれは原紙1,000枚の重さだ。四六判の原紙は788 × 1091mm。面積は0.8597m²。
110,000g ÷ 1,000枚 ÷ 0.8597m² ≒ 128g/m²
坪量に直すと比較できる。判型が違えば同じ「110kg」でも厚みは違う、という事故がここで防げる。
コピー機のボタンが、全部√2の冪になっている
冒頭の141%と71%に戻る。
- √2 = 1.41421… → 拡大141%(A4→A3。面積は2倍)
- 1÷√2 = 0.7071… → 縮小71%(A3→A4。面積は半分)
A4→A5も71%。A4→A2は200%(=141%×141%)。
コピー機の倍率ボタンの数字は、全部√2の冪乗になっている。
さらに、A判とB判を行き来するボタンもある。122%と82%だ。
- √1.5 ≈ 1.2247 → 122%(A4→B4)
- 1÷√1.5 ≈ 0.8165 → 82%(B4→A4)
なぜ1.5なのか。それは日本のB判が、対応するA判の面積1.5倍として定義されているからだ。この話は後でする。
誰が考えたのか
この体系を作った人の話をしておきたい。
よく「A4を発明したのはリヒテンベルク」と紹介される。ゲオルク・クリストフ・リヒテンベルク、ドイツの科学者で、アフォリズムでも知られる人だ。
ただし正確には少し違う。
1786年、リヒテンベルクは書簡のなかで√2比の紙の利点を指摘した。ここまでは確かだ。ただし彼は比率の利点を指摘したのであって、規格の体系を作ったわけではない。しかも彼自身、「当時すでにこの比に近い紙が存在した」とも書いている。
体系にしたのは別の人だ。
ヴァルター・ポルストマン。彼が設計し、1922年8月18日にドイツの規格 DIN 476 として公布された。
ポルストマンの発明は「いちばん大きいサイズから出発する」という考え方だった。A0に面積1m²を、B0に短辺1mを割り当てる。そこから半分ずつ切って、A0、A1、A2……という体系的な名前をつける。
これが現行の直接の祖になる。
なお、日本語のウェブ記事には「A判はドイツの化学者オストワルドが考案した」と書いてあるものがある。ヴィルヘルム・オストワルトは確かに1911年ごろに別の紙型体系を提唱しているが、現行のA判はポルストマン系であって、オストワルト系ではない。混同されているようだ。
国際規格になったのは、意外と最近
DIN 476が国際規格になったのはISO 216:1975。1975年だ。
ドイツ以外にすでに広まっていたものを、後から追認した形になる。1977年の時点で、148か国中88か国がA4を標準にしていた。
いまではアメリカとカナダを除いて、ほぼ全世界がA判を使っている。

アメリカのレターサイズは、起源が分かっていない
ではアメリカは何を使っているか。US Letter、8.5 × 11インチ(215.9 × 279.4mm)だ。A4より幅が広く、丈が短い。比率は1:1.294で、√2ではない。
ではなぜ8.5×11なのか。
分かっていない。
英語版Wikipediaにはこう書いてある。
The origins of the exact dimensions of Letter size paper are lost in tradition and not well documented.
(レターサイズの正確な寸法の起源は、伝承のなかに失われており、十分に記録されていない。)
いくつか説はある。
- 手漉き時代、11インチは職人が腕を広げられる最大幅の4分の1だった——という説。ただしこれでは幅も縦横比も説明できないと、同じページが批判している
- イギリスの旧規格 Demy判(17.5 × 22.5インチ)の4分の1——という説
「フーバー大統領が1921年に決めた」という話もよく見かけるが、あれは連邦政府の調達用紙サイズの話であって、8.5×11という寸法そのものの起源ではない。
世界でいちばん使われている紙のサイズのひとつが、なぜその大きさなのか分かっていない。 A判が数学から導かれているのと、いい対照になっている。
B判は、ISOと日本で別物
ここが調べていていちばん驚いた。
ISOのB判と、日本のJIS B判は、違うサイズだ。
- ISO B0 短辺が1000mm(1000 × 1414mm)。連続するA判の幾何平均にあたる
- JIS B0 1030 × 1456mm。面積は定義上1.5m²
つまりJIS B判は、対応するA判の面積1.5倍。線寸法では約1.22倍になる。
結果として、JIS BはISO Bより3%ほど大きい。
- JIS B5 = 182 × 257mm
- ISO B5 = 176 × 250mm
日本でB5のノートを買って、海外でB5の書類を印刷すると微妙に合わない。この3%が原因だ。
JIS B判の由来は、江戸時代の美濃紙
なぜ日本だけ違うのか。
JIS B判は、江戸時代の公用紙「美濃紙」の判型=美濃判に由来するとされている。武蔵野美術大学の資料には「B列は、江戸時代の公用紙、美濃紙の判型である美濃判に由来する日本独特のものです」とある。
ただし美濃判の実寸(およそ273 × 394mm前後とされる)とB4(257 × 364mm)は厳密には一致しない。「美濃判の寸法をそのまま採った」というより、「美濃判を踏まえたうえで、面積1.5m²という形に整理した」と考えるほうが正確だと思う。
日本でA判とB判が公式に定まったのは1929年(昭和4年)、商工省の日本標準規格 第92号だ。1951年にJIS P 0138として制定され、ISO-A系列とJIS-B系列の両方が規定された。JISのA列はISOのA列と同一になっている。
日本の官公庁がA4に揃えたのは、1993年から
B5のノート、B4の書類。日本でB判が身近なのは、官公庁がB判を使っていたからだ。
いつ変わったのか。調べたら、はっきりした日付が出てきた。
1992年(平成4年)6月19日、臨時行政改革推進審議会(第三次行革審)が答申を出し、国の行政文書のA判化を提言した。
1993年(平成5年)1月8日、各省庁が実施方針を通達している。厚生省のものが全文公開されていた。
行政文書の用紙規格のA判化に係る実施方針について(総第3号、平成5年1月8日、厚生省大臣官房総務課長)
中身はこうだ。
- 原則A4。困難な場合はA5またはA6
- 1993年4月 会議資料・内部文書をA判化
- 1994年4月 特段の事情があるものを除く一般の行政文書をA判化
都道府県も同時期に追随した。
つまり日本のオフィスがA4中心になったのは、1990年代の行政改革の副産物ということになる。それ以前はB5の書類が当たり前だった。
学校のノートがいまもB5中心なのは、その慣性が残っているからだと思う。ただしこの因果を示す一次資料は見つからなかったので、断定はしない。
長形3号封筒は、定形郵便の上限ぴったりにできている
ここから実務の話を続ける。
会社でいちばん使う封筒は長形3号だと思う。請求書を三つ折りで入れる、あの縦長のやつだ。サイズは 120 × 235mm。
この数字には、二つの制約が同時に入っている。
制約① A4を三つ折りにしたら入ること
A4の長辺297mmを三等分すると、99mm。短辺は210mmのまま。つまり三つ折りA4は 210 × 99mm。
長形3号(120 × 235mm)に対して、幅は235 − 210 = 25mmの余裕、高さは120 − 99 = 21mmの余裕。ちょうど封入できて、ちょうど指が入る。
制約② 定形郵便の寸法上限を超えないこと
日本郵便の定形郵便物は、長辺23.5cm・短辺12cm・厚さ1cm以内と決まっている。
長形3号は 23.5cm × 12cm。
上限ぴったりだ。
つまり長形3号は、「A4三つ折りが入る最小」と「定形で出せる最大」の、両方の壁に同時に貼りついている封筒ということになる。1mmでも大きくすると定形外になり、小さくするとA4が入らなくなる。
よく使われている理由が、寸法だけで説明できてしまう。
A4をそのまま入れるなら角形2号
折らずに送りたいときは角形2号(240 × 332mm)。A4(210 × 297mm)に対して、幅30mm・高さ35mmの余裕がある。
こちらは定形の上限をはるかに超えているので、定形外になる。「折らずに送ると急に高くなる」のはそのためだ。書類を折っていいか悪いかで、封筒も料金区分も変わる。
なお、A4がぴったり入る封筒は角形A4号(228 × 312mm)もある。角2より一回り小さく、そのぶん軽い。クリアファイルごと入れるなら角2、書類だけなら角A4、という使い分けになる。

A4は、画面とは違う形をしている
紙とディスプレイの比率が違う、という話も書いておく。
- A4 1 : 1.414
- 16:9 1 : 1.778
ノートPCやモニターは16:9か16:10。A4より横に長い。
だからPowerPointのスライド(既定は16:9)をA4に印刷すると、上下に大きな帯が出る。逆にA4で作った資料を画面に映すと、左右が余る。
会議資料を「印刷でも投影でも使う」つもりで作ると、どちらかが必ず不格好になる。これは作り手の腕の問題ではなく、比率が違うものを1枚でまかなおうとしているだけだ。
対策は二つしかない。
- 投影用と配布用を分ける(スライドは16:9、配布はA4に組み直す)
- 投影を4:3に戻す(4:3は1:1.333で、A4の1:1.414にかなり近い)
昔の資料が4:3だったのは、プロジェクタの都合もあるが、紙と比率が近かったという副次的な利点もあった。16:9が標準になったとき、紙とのズレは広がっている。
A4のピクセル数は、解像度で決まる
画像やPDFでA4を扱うときの数字も、ここから出る。
A4は 210 × 297mm = 8.268 × 11.693インチ。これに解像度を掛けるだけだ。
| 解像度 | ピクセル | 用途 |
|---|---|---|
| 72dpi | 595 × 842 | 画面表示・PDFの既定 |
| 150dpi | 1240 × 1754 | 社内資料の印刷 |
| 300dpi | 2480 × 3508 | 一般的な印刷入稿 |
| 350dpi | 2894 × 4093 | 商業印刷の標準 |
72dpiの 595 × 842 という数字を、どこかで見た覚えがある人は多いと思う。
PDFの内部単位は「ポイント」で、1ポイント=1/72インチ。A4をポイントで表すと 595.28 × 841.89pt。丸めると 595 × 842。
PDFのページサイズと、72dpiのピクセル数が同じ数字になる。 単位が違うだけで、どちらも1/72インチを1として数えているからだ。
印刷屋さんに「350で」と言われたら 2894 × 4093、Webに載せるだけなら150で十分、と換算表を1枚持っておくと早い。
A4の「書ける範囲」は、思っているより狭い
最後に、いちばん実務で刺さるところ。
A4は210mm幅だが、印刷できるのは全部ではない。
プリンタには物理的に印字できない縁がある。家庭用インクジェットで上下左右3mm前後、レーザーだと5mm前後。さらに文書の余白設定が乗る。
Wordの既定余白は上下35mm・左右30mm。すると本文が入るのは——
- 幅 210 − 30 − 30 = 150mm
- 高さ 297 − 35 − 35 = 227mm
A4の面積のうち、実際に文字が載るのは半分ちょっとということになる。
Excelで「1ページに収まらない」が起きるのは、たいていここだ。列幅の合計をA4の210mmで考えていると、毎回はみ出す。左右余白を20mmまで詰めても使えるのは170mm。表を作るときは170mmを持ち札だと思っておくと、印刷プレビューで泣かなくて済む。
縦横を入れ替えれば持ち札は257mm(297 − 20 − 20)に増える。「横向きにすれば入る」のは根性論ではなく、87mm増えるという計算だ。
ついでに — 紙は8回しか折れない、の話
紙を何回折れるか、という話がある。
サイズの話としてはこうなる。A0を8回折るとA8(52 × 74mm)。名刺より小さい。A4基準なら4回でA8になる。
物理的に「紙は8回しか折れない」というのは別の問題で、厚みが倍々に増えることによる制約だ。こちらは紙の大きさと厚さ次第で、実際に記録は破られている。
航路 — 数学から出てきた規格
整理する。
- A判の縦横比 1:√2。半分に折っても形が変わらない唯一の比率
- A0の面積はちょうど1m²。これは定義
- だから A4一枚の重さ=坪量÷16 で暗算できる
- コピー機の 141%・71%・122%・82% は、全部√2と√1.5から出ている
- 長形3号は、A4三つ折りの最小と定形郵便の最大に同時に貼りついている
- A4 1:1.414 と 16:9 1:1.778 は別物。印刷と投影は兼ねられない
- A4のピクセルは解像度×インチ。PDFのpt数と72dpiのpx数は同じ595 × 842
- 実際に文字が載るのは 150 × 227mm。表を組むなら持ち札は170mm
- 比率の利点を指摘したのはリヒテンベルク(1786年)、体系にしたのはポルストマン(DIN 476、1922年)
- 国際規格になったのは ISO 216(1975年)
- アメリカのレターサイズは、起源が分かっていない
- JIS BとISO Bは別物。JIS Bは面積1.5倍で、美濃判に由来するとされる
- 日本の官公庁がA4に揃えたのは 1993〜94年
毎日つかんでいるA4という紙に、1平方メートルを2の4乗で割ったという設計がそのまま入っている。コピー機のボタンの数字にも入っている。
そして隣にある8.5×11インチの紙は、なぜその大きさなのか誰も知らない。
同じ「紙のサイズ」なのに、片方は数学から導かれていて、片方は伝承のなかに消えている。この対比が、調べていていちばん面白かった。
この記事は、まだ書きかけです
この記事は、公開してから足していく形にしています。調べたことを書いた本文がまず先にあって、あとから「聞き手と話し手の会話」「あとで思い出したこと」「読んだ人から教わった補足」が積もっていきます。
だから、同じURLでも半年後には別のものになっているはずです。もし一度読んだことがある記事なら、下の更新ログだけ見てください。増えたところが分かります。
更新ログ
- 2026-09-27 公開(本文のみ。会話パートはこれから足します)

